月別: 2021年9月

Land and Sea

どんな時代でも、どんな場所でも、人の心を感動させる普遍的な美しさに私は惹かれます。カナダの大自然は、そんな普遍的な美を、いつもさらりと私の前に繰り広げてきます。

カナダの夏は毎年9月最初の月曜日、Labour Day(レイバー・デイ)の祝日と共に終わりを告げる気がします。この日を過ぎると途端に肌寒さを感じる曇りや雨の日が多くなり、長い冬への扉が少しづつ開き始めるのです。カナダ人は6月~8月の短い夏を謳歌する為に、本当に情熱的に各地方へ駆け巡ります。「夏の間はローカル(地元)のお客とほとんど会わなくなるの。」と、近所の小売店の人が言っていた言葉をふと思い出しました。

7月末までずっと日本に滞在していた私にとって、カナダの夏は数週間しか残っていませんでしたが、1年で最も活動的で美しい季節を逃すまいと、私も残りわずかな夏の日々を精一杯謳歌しました。9月頭にキャンプで訪れたバンクーバー島にあるMiracle Beach(ミラクルビーチ)。ここを拠点とした夏休みは、特に最高の時間となりました。

何キロメートルにも伸びる砂浜に、穏やかでガラスのような海。その優しい海の向こう側には本土沿岸にそびえ立つ氷河を抱いた山々が連なっています。南国のようなサンディービーチと青い海と雪山。シュールにも思えますが、これがカナダ西海岸の典型的な情景です。

朝の引き潮時には、沢山の海の生き物が顔を出します。特にびっくりしたのは、シーアスパラガス(厚岸草)の群生。海水で育つ為、かなりしょっぱいですが、私はこの塩気が大好きで生でポリポリ食べてしまいます。

引き潮の時間にしか姿を見せない自然のアート、砂紋も惚れ惚れする美しさでした。その場に足跡を残してしまったら申し訳ない程、完璧で繊細なグラフィカルアートです。夜は天の河がくっきり見える満天の星空を上に、満ちてくる波の音を聞きながら過ごしました。ミラクルビーチは1日に何通りもの違う美しさを見せてくれる場所です。

ミラクルビーチから車で30分ほど北上したCampbell River(キャンベルリーバー)と呼ばれる小さな町は、「サーモンキャピタル」と呼ばれるサーモン釣りのメッカです。9月頭と言うのに、既に沢山の釣り人で川は賑わっていました。そこからフェリー に乗ること10分。人口4,000人ほどの静かな島、Quadra Island(クアドラ島)にあっという間に到着します。船旅でたった10分の距離だけど、ここでは全く違う時間の流れと、抜群の透明度を誇る海が待っています。

海が豊かだと、生き物も豊か。ビーチ沿いには、生牡蠣やアサリがザクザク!!海岸を埋め尽くすように生息している海藻も青々しく輝いていて、とっても美味しそう!この日の夜、海の恵みで作ったアサリのビール蒸し、焼き牡蠣、海藻ラーメンは絶品でした。

クアドラ島には、カナダ最北端のワイナリーもあります。なんと偶然にもオーナー夫人が日系カナダ人の方で、オーガニックの葡萄で丁寧な優しいワイン作りをしています。地消地産の文化が根付くクアドラ島のシンプルな営みはとても贅沢に感じます。

美しさは海だけではありません。バンクーバー島の中部を占めるStrathcona Provincial Park (ストラスコーナ州立公園)は1911年に設立したBC州で最も古い州立公園です。むか~し昔、私の中学時代、バンクーバー現地校でここに修学旅行・野外研修で訪れたのを覚えています。2,458km2と言う広大な公園は、2,416km2と言う神奈川県面積と比較するとどれだけ広いか少し想像出来るでしょうか。そんなストラスコーナ州立公園は、まさにアウトドアのメッカ。ハイキング、カヌー、カヤック、釣り、ロッククライミング、スキー、と様々なアウトドアスポーツを楽しめます。

とにかく広いので、1日に1箇所と決めて行動するのが精一杯。とある1日、公園内にあるヘレン・マッケンジー湖とバトル湖を周遊する約10kmのトレイルをハイキングしました。Paradise Meadows(パラダイスメドウ)とも呼ばれるこのトレイルは、息を飲むほどの美しさで今回の旅のハイライトとなりました。

ちょうど夏から秋に移り変わるアルペン・ツンドラの紅葉時期で、その名の通りパラダイスの美しさです。大地を埋め尽くす草木の紅葉は満開の花畑のように、秋色のじゅうたんのように、鮮やかに辺り一面を染め上げていました。

沢山の小さな実をつけた山のブルーベリーや、甘~いハックルベリーなど、北の山の恵みも沢山楽しめました。それをご馳走に飛び交う野鳥達。以前からツンドラの紅葉を見たかった私は、パラダイスメドウのハイキングはちょっと別格で、終始足を止めては夢心地の気分に浸っていました。半日のハイキングが終わる頃にはちょっと寂しくなってしまうほど。。。

出口付近で子連れの家族がどのトレイルを進もうか迷っている様子だったので、思わず「このトレイルに行って!本当に最高だから!」と送り出しました。ストラスコーナ州立公園を再訪する時は、また必ず歩きたいトレイルです。

どんな時代でも、どんな場所でも、どんな人にも、自然はその美しさを惜しみなく披露し、人の心を充電してくれます。混沌とした世の中でも、海や山はただそこにあるだけで、全ての人に大きな喜びと感動を与えてくれます。その自然の一部になった時、人がどんなに小さく尊い存在かも気づかせてくれるのです。自然にしか成せない美の技に感服すると同時に、カナダの短い夏は、私にまた素晴らしい思い出をひとつ増やしてくれました。

Climate Change is Real

生まれて初めて山が燃える姿を見た瞬間、何とも言えない虚しさと共に足がすくむ思いをしました。

BC州ではこの夏、4月から7月にかけて起きた山火事は累計1,168件にも上り、約3.4万ヘクタールの大地が燃えました。9月に入った今日でも、未だ223箇所で山が燃え続けています。あまりにも広大な数字でいまいちピンと来ませんが、8月にカナダに戻った数日後にも何百キロと離れた山火事の煙がバンクーバー にも影響を及ぼしました。その日、バンクーバーは「世界一最悪の大気汚染の場所」としてランキングされてしまったのです。

山火事の煙で太陽が隠れ空が霞んでも、きな臭い匂いが街中を包んでも、実際に山が燃えている現場でオレンジ色に燃える炎を目撃するのとでは、ハッと目が覚める様な意識の違いがありました。

観測史上ワースト3に入る今回の山火事の最中、私と夫は仕事も兼ねて山火事が多発しているBC州の内陸にあるオカナガンに行くことになっていました。オカナガンはワインの産地として有名で、カナダの中でも最も乾燥している地域です。ギリギリまでニュースを注意深くチェックしながら、慎重に旅の準備を整え向かった結果、いつものワーケーション(仕事とバケーションを合わせた旅)とは違う、深い意味ある旅になりました。

山火事は今世界が直面する大きな環境問題のごく一部に過ぎません。そして、山火事の多発する現地に住む人々の中でも様々な意見が飛び交います。「山は燃えるもの」と言う人や「良い年も悪い年もある」と言う人がいれば、若い世代の中には気候変動に対して「早くアクションを起こさなければ20~30年後に農業が出来なくなる」と危惧する声も。毎日メディアで大きく取り上げられることで、風評被害だと言う声も聞きました。同じオカナガンでも風向きによって煙の方向が変わったり、激しく燃えている地区もあればそうでない地区もあるので、夏の観光シーズン中に旅行者がコロナ禍に加えて激減してしまい、肩を落とすワイナリーも多々存在します。
「葡萄のことばかり煙の影響があると取り上げられて…。果物や他の農作物だって同じなのに、なぜメディアはワイナリーに対して厳しいのか。」と少し苛立ちを感じる声も。

個人的な経験から言うと、私が幼少期カナダに住んでいた80年代後半〜90年代当時、山火事の煙がバンクーバーにまで影響があった事は一度もありませんでした。山が燃えるのは自然のサイクルの一部であっても、その状況は刻々と悪化している事に間違いありません。

ハイウェイの両脇で黒く焼き焦げた木々が辛うじて立っている光景を目にしました。地面を這うように燻るオレンジ色の炎が揺れ動いていました。オカナガンでは珍しく、クマや野生羊や鹿が沿道に姿を表していました。きっと炎で山を追われて迷い込んで来たのだろう、そう思うと胸がズンと重くなります。頭上には絶え間なく消火活動に努めるヘリコプターが往来していて、いつもの夏とは違う「賑わい」を体験した感じです。

そんな一味違うオカナガンから戻って来て、自分の中で決めたことが幾つかあります。

①家では牛肉を食べない。もともとほとんど食べませんが、徹底しようと決意。畜産全体が排出するメタンガス排出量の80%は牛肉生産によるものです。

②ゴミを出さない。リサイクルやリユーズ(再利用)する事で、家庭内のゴミは1週間で手のひらサイズ程度に抑えられる事が出来ます。

③食品用ラップフィルムを使用しない。前から気になっていたサランラップなど、プラスチックゴミ削減の為、この機会におさらばする事にしました。

④衣類は天然素地のものを選ぶ。海洋プラスチック問題の大きな一因は、私達が纏う衣類からです。化学繊維ものはなるべく買わずに、肌にも環境にも優しいリネン、シルク、オーガニックコットを中心に選んでいます。

⑤買い物にはエコバックを。食材の買い物だけでなく、日用品にも必ずマイバックを持参。カフェや仕事現場には、マイボトルを。リサイクル用品だって再生するのにエネルギー消耗するのでなるべくリサイクル用品の数も減らせるように心掛けています。

まずは自分が始められる小さな行動の変化から環境問題にもっと取り組もう。そう再確認させてくれた今回の旅でした。

最近目に留まった言葉で、私の原動力になっている言葉は「You must be the change you want to see in the world.」(あなたが見たいと思う世界の変化にあなた自身がなりなさい。)
私は100年後も200年後も美しい世界を見たいから、今自分が生かされている時間の中でどれだけ自分の周りを汚さずに立ち去れるか、楽しみながら頑張っていこうと思います。ひとりひとりの小さな行いが、この大きな地球をきっと綺麗にお掃除してくれる事を信じて…。