世界の困惑をよそに、バンクーバーでも桜が咲き始めました。自然は人間の活動や心情に関係なく、忠実に1年のサイクルを営んでいます。
去年同じ頃にバンクーバーで眺める桜のジャーナルを書きましたが、その時と今の状況がこんな変化を遂げるとは、誰が予想したでしょう。人生は何が起きるか分からない「ま坂」がありますが、自分を取り巻くこの世界もまたサプライズの連続であることを思い知らされます。
そんな困惑状況の中で、良い情報、悪い情報、偽りの情報と、とても沢山のノイズ(音)に囲まれて生活している人も多いと思いますが、私は最近とてもカナダらしいノイズを耳にします。
バンクーバーでも今、「STAY HOME」が基本ルール。コロナウィルス感染拡大の阻止対策として、市民は在宅を強いられています。その影響で走る車が減ったからか、毎朝小鳥の鳴き声がとても活発に、より鮮明に聞こえるようになりました。鳥達はいつも通りの行いでも、きっと今までは、忙しく行き交う通勤の車のノイズでかき消されていたのでしょう。空が薄っすらと明るくなると同時に、鳥達の賑やかな挨拶が、まるでアウトドアでキャンプしているかのように聞こえて来ます。この自然の目覚ましがとても心地良く、最近はよりスッキリと起きられます。
夜7時になると、今度は違うノイズが聞こえて来ます。それは現在、医療の最前線で絶え間ない闘いを強いられている医療従事者達に向けて、バンクーバー市民が敬意を表すノイズです。7時ジャストになると、多くの住人が自宅のバルコニーから顔を出し、鍋を叩いたり、笛を吹いたり、拍手をしたりと、勇敢な医療従事者達を称えます。毎晩7時に病院のシフトチェンジがあるそうで、このタイミングでエールを送るのです。初めてこのノイズを聞いた時は、近所で何の騒ぎだろう?と不思議に思っていましたが、日に日に増すこの敬意のノイズに、今は私も毎晩楽しみに参加させてもらっています。
そして今までに増して、「THANK YOU」(ありがとう)の言葉が飛び交っている気がします。コロナウィルスの影響により無料でバス運行をしているドライバー達にも乗客はいつものように「ありがとう」と言って下車します。スーパーのレジ係の人にも「ありがとう」。ゴミ収集車にも「ありがとう」。そして、まだ辛うじてお店を開けることのできるローカルショップに行くと、「こんな状況の中、来店してくれてありがとう」と逆に返されます。不便な生活、不安な心境の中で聞く「ありがとう」は、何か特別な重みを感じます。
どんなノイズを自分の耳に取り込むかによって、自分の気持ちも大きく変わっていくものです。こんな時だからこそ、ポシティブなノイズに耳を傾け、自分も良いノイズを放っていけるように、日々過ごしていきたいです。